【2000年12月3日】秋の野点の思い出

中庭の芝生のグランドをながめながら、
看護師長がつぶやいた。

"回想法なんてたいそうなことを言わなくたって、茶飲み話すりゃあいいんだよ"
"そうだ、お茶会やろう!みんな招待して、ここで野点しよう!"

400人を超える入院している方をみんな招待する秋の野点。

ボランティアの方を探し、職員の協力を得、あっという間に実現。

一人一人にていねいにお茶を差し上げた。

いつもは話をせず、口をパクパクして、よだれを流していた方が
着物をきて、背筋を伸ばし、お手前を見せてくれた。
その後、何日も茶道の心得を職員に教えてくれた。
病院の建物の外にでようとすると体が固まってしまって
10年間出ることができなかった方が、
中庭の野点を窓から眺め、琴の調べに誘われて
神様が60分だけ出ても良いといったからと言ってゆっくりとお茶を飲んだ。
その後、「人生の中で一番うれしかった50分」と紙に書いてくれた。

きちんと向き合えば、きちんと応える。
ゆったりと寄り添えば、ゆったりとすごせる。
のどかな秋の日差しのなかで、瞬時の輝きがあちこちにあった。
いつもの日々のケアがあるから、特別な日に輝くことができる。
眠れない老人に添い寝をする看護婦や、
汚したトイレをもくもくと磨くヘルパーがいてこそ、
あの日輝けた。
陰で支えるスタッフに感謝。


※本記事は、20年以上前(2000年11月~2004年4月)千葉県内の某精神科専門病院に看護部長として勤めていた頃、ナースサポートKKに掲載していたブログ『あっけらかん病院看護日誌』のアーカイブです。


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