玄関を入るとガラス戸の向こうに中庭が見える。正面に古い時計、その横にすりきれた椅子と、張り直してペンキを塗った椅子が置いてある。
すりきれた椅子の背中には、一枚の紙がはってある。
「壊れた椅子を直してみませんか?」
2ヶ月前ホテルから古い椅子を90脚もらった。
つくりはいいのだが、布がすりきれている。
このままでは、使えない。
みんなで直せば、使えるのにな。
そう思いながら、私は中庭で空をながめていた。
ぽつんとベンチに座った60歳くらいの入院患者が、
「退屈なんだよ、何もすることが無くて、」
と、つぶやいた。
「あら、あるわよすること。ちょっときてみて。」
会議室の90脚の椅子を見て、
「無理だよ、ひとりじゃ。」
「私、人を集めるから。おねがいね。」
呼びかけに応えて、
入院患者さん、デイケアメンバー、作業療法士、運転手、医師、看護婦・士が集まった。
今日、「ごめんね。来月退院するんだ。椅子直せないよ。」
と彼は、わざわざ言いにきてくれた。
椅子修理グループ『椅子を直す日々』が明日から始まる。
※本記事は、20年以上前(2000年11月~2004年4月)千葉県内の某精神科専門病院に看護部長として勤めていた頃、ナースサポートKKに掲載していたブログ『あっけらかん病院看護日誌』のアーカイブです。
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