【2003年5月7日】ヒーロー

Aさんはとび職だったので、
病室を抜け出し、ベランダをつききり、
フェンスをこえていさな庇(ひさし)にちょこんと座っているのは、
おちゃのこさいさい。
向こう側の窓から見た患者さんが教えてくれてみんなが駆け寄ってきました。
わたしも部屋の窓から見えたのですぐかけつけました。
みんな騒ぐことはないのよプロなんだから、
さあ、Aさんの妙技を見物させてもらいましょ!
雨樋をするすると降りてくるAさん。
「おみごと!皆さんで拍手しましょう!」
と声をかけ、パチパチという職員の拍手の中、
満足そうなAさんが屋根から下りて来ました。
スタッフと病室に戻るAさんに私はこう言いました。
「今度はベランダ越える前に教えてね。観客もっと多いほうがいいでしょ。
あたしフェンスを越えるところから見たいから、Aさん必ず私を呼んでね!」
病室に帰ったAさんに師長がどんな気分だったかときくと
「いい気持ちだった」と満足気な顔をしたそうです。
そりゃそうよ、ヒーローだもの。

※本記事は、20年以上前(2000年11月~2004年4月)千葉県内の某精神科病院に看護部長として勤めていた頃、ナースサポートKKに掲載していたブログ『あっけらかん病院看護日誌』のアーカイブです。

  

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