【2001年7月18日】ごめんなさい

病棟の廊下を歩いていると、車椅子のAさんの横に看護婦が困った顔をしてしゃがんでいます。

「Aさんは聖書を読んでいるのに人のものをとったり叩いたりするの?」 

問いつめられても、Aさんは下を向いてよだれがでるだけ。
「もごもごもご・・・」 

通り掛かりの私は床頭台(しょうとうだい)の上のタオルをとって、よだれをふきながら言いました。
「聖書を読んでるのに人のものをとったり叩いたりしちゃうんじゃないわよね。人のもの取ったり叩いたりしちゃうから聖書を読んでいるのよね。」 
看護婦はあっそうかと目を丸くして、Aさんはますますうなだれました。
私が通りすぎたあと、看護婦はこういったそうです。
「間違ったことをしたときはどうすればいいのか、聖書のどこに書いてあるか教えてください」
翌朝婦長が声をかけました。
「おはようございます。Aさん、見つかりましたか」
下を向いてAさんは答えました。
「注意して読みます」
私がよだれをふいたタオルは床頭台を拭くタオルだったんですって。
Aさんごめんなさい。

※本記事は、20年以上前(2000年11月~2004年4月)千葉県内の某精神科病院に看護部長として勤めていた頃、ナースサポートKKに掲載していたブログ『あっけらかん病院看護日誌』のアーカイブです。

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